偉人たちの知られざる物語

天才画家ピカソも?知られざる「盗難事件」との奇妙な縁

Tags: パブロ・ピカソ, エピソード, 美術史, 人間ドラマ, 20世紀初頭

輝かしいキャリアの影に潜む「事件」

パブロ・ピカソは、20世紀を代表する芸術家であり、キュビズムを創始するなど美術史に革命をもたらしました。彼の名前を聞けば、誰もがその偉大な業績を思い浮かべることでしょう。しかし、そんなピカソの知られざる一面として、彼が経験した、あるいは巻き込まれた意外な「盗難事件」との奇妙な縁があることは、あまり広く知られていないかもしれません。

それは、1911年のことです。後に世界中を騒がせることになるルーヴル美術館の「モナ・リザ」盗難事件が発生する少し前の出来事でした。

意外な「盗品」購入と友人の逮捕

当時、ピカソは若きアヴァンギャルドの旗手としてパリで活躍していました。彼はまた、古代美術品、特にイベリア彫刻の熱心な収集家でもありました。ある時、彼は友人の詩人ギョーム・アポリネールの紹介で知り合った男から、興味深いイベリア彫刻を手頃な価格で購入します。

しかし、この男、ジェリー・ピエレという名の人物は、ルーヴル美術館から度々美術品を盗み出し、それを古物商などに売りさばいていた前科者でした。ピカソが購入した彫刻も、実はルーヴル美術館から盗まれたものだったのです。

ピカソは、この彫刻が盗品かもしれないという噂を聞いたことがあったと言われています。しかし、その真偽を深く追求することなく、あるいは好奇心や所有欲に駆られてか、購入を決めたようです。当時の芸術家の間には、異国や古代の美術品を蒐集するブームがあり、その倫理観は現代とは異なる部分もあったのかもしれません。

事態が急変したのは、1911年に「モナ・リザ」が盗まれた後のことです。当局がルーヴル美術館からの盗品について捜査を強化する中で、ピエールが以前に美術館から盗み出したイベリア彫刻を巡る話が浮上しました。

そして、ピエールの共犯者として、最初に逮捕されたのがピカソの友人、ギョーム・アポリネールでした。アポリネールは、ピカソが盗品を購入した経緯を知っていたため、共犯の疑いをかけられたのです。

尋問される天才画家

友人の逮捕を知ったピカソは動揺しました。彼はアポリネールが逮捕された後、自分が持っている盗品の彫刻が事件に関係していることを恐れ、証拠隠滅を図ろうとします。伝えられるところによると、彼は彫刻をセーヌ川に投げ捨てようとさえしましたが、結局思いとどまったとされています。

その後、ピカソ自身も警察の尋問を受けることになります。彼は「自分は彫刻が盗品だとは知らなかった」と主張しましたが、尋問中に涙を流すなど、相当に動揺していた様子が伝えられています。また、友人のアポリネールとは面会させられず、お互いをかばうこともできませんでした。

幸いにも、この件でピカソが逮捕されることはありませんでした。アポリネールも数日後に釈放され、事なきを得ます。しかし、この一連の出来事は、若く気鋭の芸術家であったピカソにとって、大きな精神的なショックだったことでしょう。

このエピソードが語るピカソの人間性

この知られざるエピソードは、教科書に載っている「天才ピカソ」像とは少し異なる、生身の人間としての彼の姿を垣間見せてくれます。

もちろん、盗品と知りつつ購入したとすれば、それは倫理的に問題のある行動です。しかし、この話からは、時代の空気に流されやすい若さ、自分の欲望に正直な側面、そして逮捕という事態に直面した際の動揺や恐怖、友人への複雑な思いなど、人間的な弱さや感情が読み取れます。彼は決して聖人君子ではなく、失敗も動揺もする、私たちと同じ一人の人間だったのです。

この奇妙な盗難事件との縁は、ピカソの長い人生におけるほんの一挿話に過ぎません。しかし、ここから見えてくる人間味あふれる姿こそが、彼の作品をより深く理解するための鍵となるのかもしれません。天才であると同時に、悩みや過ちも犯す一人の人間であったパブロ・ピカソ。彼の物語は、だからこそ私たちの心を捉え続けるのでしょう。