天才レオナルド・ダ・ヴィンチも悩んだ?知られざる「未完成の苦悩」
天才のもう一つの顔、終わらない探求心
「万能の天才」として知られるレオナルド・ダ・ヴィンチ。絵画、彫刻、建築、科学、医学、解剖学、工学など、その活躍は多岐にわたり、教科書や美術書では常に完璧なイメージで語られます。しかし、そんな天才の生涯には、あまり知られていない一面があります。それは、彼が手掛けた多くの作品やプロジェクトが、実は未完成に終わっているという事実です。
「最後の晩餐」や「モナ・リザ」のような傑作を世に残したダ・ヴィンチが、なぜ多くの仕事を完成させられなかったのでしょうか。そこには、理想を追い求める天才ゆえの人間的な苦悩や、知られざるエピソードが隠されています。
理想が高すぎて終われない? 未完成の理由
ダ・ヴィンチの未完成作品として特に有名なのが、ミラノのスフォルツァ家のために制作を依頼された巨大な騎馬像です。粘土製の原型は完成し、青銅を流し込む寸前まで進んでいましたが、フランス軍の侵攻により青銅が武器に転用されてしまい、像は破壊されてしまいました。これは外部要因ですが、彼の未完成には、彼自身の内面に起因するものも少なくありません。
例えば、フィレンツェのヴェッキオ宮殿に描くはずだった巨大壁画「アンギアーリの戦い」。ミケランジェロの壁画と向き合う形で描かれる予定でしたが、ダ・ヴィンチは新しい技法(フレスコではなく油彩に近い技法)を試みた結果、絵具が定着せず、完成前に描画は劣化してしまいました。単に依頼を放棄したわけではなく、常に新しい表現方法や技術を追求した結果、うまくいかないこともあったのです。
さらに、彼のノートに残された膨大なスケッチやアイデアも、実際に形になったものはごく一部です。飛行機、潜水艦、戦車など、時代をはるかに先取りした発明の数々も、設計図や試作段階で終わっています。これは、彼の探求心が際限なく広がり、一つのアイデアに固執することなく、次々と新しい興味の対象に移っていったためとも考えられます。また、細部にこだわりすぎる完璧主義ゆえに、いつまでも納得できず、完成させることができなかったという側面もあったかもしれません。
天才もまた、悩める人間だった
パトロンからの厳しい納期や催促、そして自身の理想と現実のギャップ。ダ・ヴィンチの生涯は、単なる輝かしい成功物語ではなく、常に新しいものを追い求める探求心と、それを完璧に実現しようとする情熱、そしてそれが故に生じる葛藤や苦悩に満ちていたと言えます。
「モナ・リザ」でさえ、彼は生涯手元に置き、死の直前まで加筆を続けていたと言われています。これは、彼が作品を単なる依頼された商品としてではなく、自身の内面と向き合い、理想の表現を追求し続ける「生き物」のように捉えていたことの証かもしれません。
多くの未完成は、彼が「終わらせられなかった」というよりも、常に「より良くしよう」「新しいものを探そう」ともがき続けた結果だったのです。
未完成だからこそ見える、人間ダ・ヴィンチの姿
完璧主義で、常に理想を追い求めた結果、多くの作品を未完成のまま残したレオナルド・ダ・ヴィンチ。その姿は、私たちに多くの示唆を与えてくれます。
天才と呼ばれた彼でさえ、悩み、失敗し、理想と現実の間で苦闘していました。彼の未完成の作品や膨大なノートの断片は、単なる「やりかけ」ではなく、尽きることのない彼の好奇心、飽くなき探求心、そして完璧を目指したが故の人間的な苦悩を物語っています。
教科書には載らない、理想を追い求め続けた一人の人間の情熱と葛藤。ダ・ヴィンチの「未完成の苦悩」を知ることで、私たちは彼という偉大な人物を、より深く、人間味あふれる存在として理解することができるのではないでしょうか。